職人

「俺のビールおいしなったなー」「日々勉強、日々前進してるな」「職人になってきたなー」本人が自画自賛型人間だから、こっちは「そーやなー」と笑ってかるく返すだけだけど、彼は本当に職人になった。よく思うこと。

 

技術磨きに集中したこの2,3年。レシピ、ホップ・麦芽・酵母・副原料…原料の使い方、組合せ、投入方法、水質調整、仕込工程、ボトリング方法、設備の洗浄方法、年間の製造管理…多岐に渡って、ちいさいことから大きいことまで、とにかく改善続けてる。もちろんまだまだ発展途上だけど、明らかにうちのビールは数年前よりおいしくなったはず。

 

何が彼をこう変えたんだろうと思うと、おいしいビールはもちろん、ビール仲間の存在がかかせない。仲間からの刺激は間違いなく何にも代え難い。隣でみていて強く感じます。

 

マットが醸造所に来てくれると「最近こんなのを飲んだ」「こんなのが流行ってる」「次こんなのつくりたい…」賑やかなトークは尽きないし、昨年末DD4Dさんへコラボビールの仕込みに行ったときは大騒ぎ。前もってレシピを醸造長のマイクさんと相談している時から「へー」とか「わー」とかの連続で、「DD4Dさんの技術全部盗めるまで帰ってこんから」と言い残し、愛媛へ(先方へも宣言済)。帰ってきてからも、作業工程11つがこうだったとか、ボトリングまでお洒落だったとか…、1週間くらい興奮状態が続きました。

 

小豆島という土地柄もあってか国内外のブルワリーから職人さんが飲みに来てくれる機会も多々。そういう時はねほりはほり、情報交換が延々と続きます。

 

流行傾向・醸造技術・原料…今猛スピードで進化し続けているクラフトビールという業界。最新の生きた技術、情報があるのは、英語の書籍やサイトを超えて、間違いなく醸造現場。みんなそれぞれに試行錯誤の繰り返し、まさにトライ&エラーで、そこからカルチャーが育っていることを実感します。そんな現場からうまれるトークには、学びが尽きません。

 

(↑上はマットシリーズの仕込み、下はDD4Dさんとコラボビールの仕込み)

 

そしてもうひとつ最近思うこと。彼が仲間や他のブルワーさんから得ているそれ以上に大きなものは「職人としての姿勢」なのかも。

 

私たちが美味しいと感じるビールをつくり出している仲間、出逢うブルワーさんはみんな勉強熱心で、常に研究と挑戦を続け、向上心に満ち溢れていて。なぜかとても人柄穏やか(DD4Dさんはその極み)、謙虚で実直で、オープン。ブルワーとしての枠を超えて、人として尊敬する方ばかり。

 

 

結局ビールは、つくり手がつくり出す。ちいさいブルワリーほど、つくり手の人柄がダイレクトに出る。努力し続けているブルワリーのビールは、その努力が毎回飲んだ時のおいしさと面白さになって滲み出ている。そんな感じたことを夫に話したら「そーや、ビールは人がつくってるんや!」と嬉しげな返答。

 

私が彼から職人を感じるようになったのも、「ビールがおいしくなった、胸を張れるものが多くなった」だけではない、日々の姿勢なのかな。ずっとビールのことだけ考える、研究する、やってみる、謙虚でいる…そして本人曰く「やりたくないことこそきちんとする」。設備の清掃、整理、そういうところから、ビールの品質に直結する。その姿勢はどんどん濃くマニアックになって、一時は一緒のスタートライン位にいたはずだと思う私にはもう到底届かないところにいる。醸造所を一歩出たら手のかかる酔っ払いでも、私は職人として彼を尊敬し、刺激をもらう。ビールはつくれないけれど、自分のテリトリーを磨かないないととちょっと焦る。

 

何よりありがたいことに、毎日傍にいる人を尊敬できると、日々は円満にまわっていくようです。

 

(ただし、職人と酔っ払いは紙一重)